多摩動物公園(日野市程久保7)の昆虫園本館で現在展示中の「オバケコロギス」が、展示レイアウトを壊すなどして飼育員を困らせている。
オバケコロギス(学名=Sia ferox)は、インドネシアに生息するバッタ目Stenopelmatidae科(日本には存在しない科)のバッタというよりはコオロギに近い昆虫。日本国内では「リオック」とも呼ばれている。9センチ近くになる大きな体と大きく強靭(きょうじん)な顎を持ち、かみつく力が非常に強いのが特徴。野生での生態はほとんど解明されておらず、普段何をよく食べるのか、いつごろ生まれてどの程度の期間生きるのかなども分かっていない。
同園に初めてオバケコロギスが来たのは2012年12月。展示を始めて2週間ほどは、ほぼ毎日レイアウト変更を余儀なくされたという。「日本の森に生息している『コロギス』と『クロギリス』という昆虫の生活を参考にして石や枝などを配置した立体感のあるレイアウトで展示を始めたが、枝につかまるどころか隙間に隠れてしまったり、地面に無理やり潜ろうとしてレイアウトを破壊したりと散々だった。朝になるといつも空き巣に入られた民家のようになっていたが、ある程度対策ができてからは週1回程度のレイアウト変更で済むようになった」と外国の昆虫コーナーの飼育を担当する渡辺良平さん。その後2カ月ほどでオバケコロギスが死に、展示は中止となった。
その後、昨年12月にオバケコロギスが再び来園。前回の飼育経験を生かし、展示ケースは、掘られたり隠れられたりしてもよいようあらかじめ潜りやすい位置を限定、高低差も無くし、造花を設置するなどの工夫を施した。しかし、展示開始の翌朝、展示ケース内には切り刻まれた造花の姿が。
「その翌日、巣らしきものを作り始め、落ち葉や床材としてケースの底に敷いたヤシガラチップを、器用に大顎でくわえて引き込んでいる現場にも遭遇。造花は落ち葉と同様、巣材として周辺の壁代わりにするには大きくて使いづらいため切り刻んだのでは。オバケコロギス側も住みよい居住空間形成のために試行錯誤していたようだ」と渡辺さん。
現在は、「水分を欲しがるのに、必ずと言っていいほど底に敷いている木のチップなどの床材で水入れ皿を毎日埋めてしまうことに頭を悩ませている」という。
「オバケコロギスの魅力は、日本の昆虫界の常識を超える大きさと、意外に愛嬌(あいきょう)のある顔つき、そしておもちゃのような質感。物に挟まって過ごしていることが多いので、造花の下やアクリル板の下などに注目して見てほしい。全く動いていないように見えるが、ちゃんと腹部が動いて呼吸している。基本的に日中は動き回らない昆虫だが、おなかがすくと突如動き始めるので、運が良ければ食事シーンにも遭遇できることも」
「21世紀になっても、まだまだ人間が知らないことはたくさんある。昆虫好きの方も嫌いな方も、日本のコオロギからは想像もつかない『オバケコロギス』の実物を見て、世界の広さを実感いただければ」とも。
開園時間は9時30分~17時。入園料は、一般=600円、中学生=200円、65歳以上300円。小学生以下、都内在住・在学の中学生は無料。