
提供:TOKYO創業ステーションTAMA 制作:立川経済新聞編集部
多摩地域から新たなビジネスを生み出す拠点として機能する「TOKYO創業ステーションTAMA」は、起業に必要な知識や伴走支援、そして人とのつながりを提供する起業支援施設です。起業に関心を持つ人や、すでに一歩を踏み出した人たちが集い、学び、つながる場所となっています。今回開催された「2025年、私〇〇で起業しました! 発表・報告・交流会」には、この一年で起業を実現した方々が登壇し、それぞれの歩みを自分の言葉で語りました。うまくいったことも、悩んだ時間も、すべてがこれから起業を目指す人への温かなメッセージとなり、会場には静かな共感と前向きな空気が広がっていました。登壇した9人の起業への歩みを紹介します。
株式会社ancoro 湯浅真彩さん
Canvaを活用したデザインBPO事業とセミナー事業を展開する株式会社ancoroの湯浅真彩さん。企業のSNS動画制作やテンプレート開発、ブランディング支援などを通じて、日々忙しい現場に寄り添いながら、成果につながるデザインサポートを行っています。「デザインは特別な人のものではなく、誰もが使えるビジネスの力になる」。そんな想いが、事業の根底にあります。
デザインの力をビジネスで利用する様々なセミナーも開催
起業前は個人事業主として活動していた湯浅さんですが、「このまま一人で続けていくのか」「事業としてどう広げていくべきかと、将来に悩む時期もありました。」とのこと。TOKYO創業ステーションTAMAでは、プランコンサルティングを通じて事業計画書の作成を一から伴走支援。頭の中にあった想いや強みが整理され、言葉として形になったことで、進むべき方向がはっきりと見えてきたといいます。その経験が、夫の嵩大さんをビジネスパートナーに迎え、法人化へと踏み出す大きな転機となりました。
また、コミュニティマネージャーとの何気ない会話から仕事につながる出会いが生まれたり、女性起業ゼミを通じて多くの起業仲間と出会えたりと、人とのつながりも事業を後押ししました。同施設について湯浅さんは、「人と人が自然につながり、前に進む勇気をもらえる場所」と語ります。現在は多摩地域でのオフラインのつながりを大切にしながら、立川・多摩、そして全国の事業者を支える存在を目指し、活動の幅を広げています。
株式会社けん幸工房 幡野拳さん
昭島市出身の幡野拳さんが立ち上げた株式会社けん幸工房は、鶏むね肉チップス「ムネのクセに。」を開発・販売する食品スタートアップ企業です。会社員時代の自身の怪我をきっかけに体重増加や肌荒れを経験し、「お菓子は食べたい。でも健康のために我慢しなければならない」という葛藤から生まれた商品。健康と嗜好の両立に悩んだ経験が事業の原点となっています。
ソルト、バジル、カレー味の3種類を発売
商品化への道のりは、決して平坦ではありませんでした。製造方法、パッケージデザイン、販路開拓――食品開発も起業もすべてが初めてで、「何から手をつければいいのかわからない」状態からのスタートだったといいます。そんな中、頼ったのがTOKYO創業ステーションTAMAでした。コンシェルジュ相談やプランコンサルティングを通じて事業全体を整理し、ひとつずつ課題をクリアしていく道筋が見えたことで、起業という決断に踏み切ることができました。
クラウドファンディングで多くの共感と支援を集め、地域のセレクトショップでの委託販売も実現しています。多摩から生まれたこのお菓子を、「昭島や多摩を代表する新しいお土産にしたい」。そんな想いを胸に、幡野さんは一歩ずつ、着実に挑戦を続けています。
ココカラブライト 内田亮さん
18年間にわたりギフト通販業界の最前線で活躍してきた内田亮さんが立ち上げた「ココカラブライト」。中小企業の食品ギフトに特化し、事業の設計から販売、改善までを約10カ月間にわたり伴走する支援を行っています。単なるアドバイスにとどまらず、現場に深く入り込み、ともに考え、ともに走る“伴走型”の支援が大きな特徴です。
起業のきっかけは、バイヤー時代に何度も目の当たりにしてきた現実でした。「本当に良い商品ほど、想いや価値が伝わらず、静かに埋もれていってしまう」。その歯がゆさが、内田さんを起業へと突き動かしました。大手企業にはない中小企業ならではの強みや物語を丁寧に掘り起こし、“売れる形”へとつなげることに力を注いでいます。
現在はいくつかの食品関連企業を中心に伴走支援を行っており、その一例として金沢の老舗和菓子店では、経営者の想いや背景を丁寧に整理したうえで、店頭等でのアンケートを通じて消費者の声を拾い、商品づくりの方向性を検討するなど、伴走型ならではの現場支援に取り組んでいます。
豊富な業界経験を持つ内田さんですが、個人として事業を立ち上げる際には、「自分の強みをどうサービスとして切り出すか」「価格をどう設計するか」といった壁に直面したといいます。TOKYO創業ステーションTAMAのセミナーや専門相談は、事業モデルを客観的に見直す貴重な機会となりました。連続講座で出会った起業仲間の存在も、挑戦を続ける大きな原動力になっています。
同施設の神田館長から感謝状を受け取る内田さん
今後は、これまでの伴走ノウハウを体系化し、スクール型事業への展開も視野に入れています。「地域に眠る価値ある商品を、もっと多くの人に届けたい」。その想いを胸に、多摩地域の食品事業者との連携にも意欲を示しています。
Tempura X 武藤 颯汰さん
訪日外国人観光客向けに、漫画体験ワークショップを展開するTempura Xの武藤颯汰さん。プロの漫画家から直接指導を受けながら、2時間で一作品を描き上げる完結型プログラムを提供しています。英語ガイドが同行し、言葉の壁を越えて“自分の手で漫画を描く”体験は、日本文化を深く味わえるコンテンツとして、外国人参加者から高い評価を得ています。

武藤さんは会社員として働きながら、兼業起業という形で事業をスタートしました。限られた時間の中での準備や集客は大きな課題でしたが、TOKYO創業ステーションTAMAのU29向けアクセラレーションプログラム「origo(オリゴ)」や各種相談を通じて、事業化に向けた現実的なステップを学びました。競合サービスを実際に体験・調査し、観光・体験事業で起業している先輩起業家を訪ねて話を聞くなど、徹底した情報収集から事業づくりを進めていったといいます。
「特に良かったのは、origoに参加したことで、起業に本気で向き合う仲間と出会えたこと。そして、定期的に進捗を確認される環境があったことで、『いつかやろう』ではなく、『今やらなければならない』状況に自分を置けたことでした」と武藤さんは振り返ります。学びと実践を繰り返す中で、事業は少しずつ形になっていきました。
「好きなことを仕事にする難しさと、同時にその楽しさを実感しています」と語る武藤さん。今後は集客の仕組み化を進めるとともに、店舗展開にも挑戦し、日本のマンガ文化を“体験”として世界に届けていく構想を描いています。
bridge 石橋有利さん
話し方講師として活動する石橋有利さんは、司会やアナウンサーとして長年「話す仕事」に携わってきた経験を活かし、起業家向けの話し方講座を展開しています。「1分で価値が伝わる起業家の自己紹介の作り方」をはじめとする講座は、短い時間でも想いや強みを的確に伝えることを目的とし、多くの起業家から支持を集めています。起業の原点にあるのは、「良いサービスなのに、伝え方ひとつで届いていない人があまりにも多い」という現場での実感でした。
グリーンスプリングスに遊びに来た際、偶然目に留まったTOKYO創業ステーションTAMAに立ち寄ったことが、事業づくりの第一歩となりました。プランコンサルティングやコンシェルジュ相談を重ねる中で、漠然としていた構想が少しずつ輪郭を帯び、事業として形になっていきました。函館出身の石橋さんは、当初は北海道の地方創生事業での起業を検討していましたが、収益性の観点から方向転換を決断。「一人で考えていたら、ここまでたどり着けなかった」と振り返ります。事業を深く理解した上で、ともに悩み、ブラッシュアップしてくれる存在が定期的にいることは、事業面だけでなく、精神面でも大きな支えになったといいます。
コミュニティマネージャーとして支えてくれた田口さんから感謝状を受け取る石橋さん
女性起業ゼミでは多くの仲間と出会い、事業計画書を共に作り上げた経験も、現在の活動につながっています。何より、セミナーやイベントで起業家仲間と接する機会が増えたことがビジネスモデルの原点となったのが大きな成果です。自分のサービスや商品に強い想いがあるにも関わらず、それをうまく言語化できず、魅力が十分に伝わっていない方が非常に多いと感じ、「話し方ひとつで、チャンスを逃してしまう人を減らしたい」という思いから、起業家支援としての話し方講座を立ち上げました。
現在は講座の依頼も増え、公的機関からの登壇依頼を受けることも。「伝える力で、誰かの挑戦を後押しできる仕事を続けていきたい」と語る石橋さん。話し方支援を通じて、起業家の可能性を広げる取り組みは、今後全国へと広がっていきます。
Y‘s不動産ソリューションズ 岩下恭さん
自身の相続を経験する中で、家族間の調整に大きな負担を感じた岩下恭さん。「相続の話は重くなりがちで、相談する場も少ない。だからこそ、もっと気軽に話せる場所が必要だ」と痛感したことが、相続相談コミュニティを立ち上げるきっかけでした。相続・介護・不動産といった複雑に絡み合う悩みを、ワンストップで相談できる身近な拠点を、地域の中につくりたい――その想いが事業の原点です。
現在は、自身が相続したアパートの2階を活用し、レンタルスペース「Y’s CAFE」を運営しています。近隣にある武蔵野美術大学の学生が個展や展示の場として利用するほか、イベント開催の拠点としても活用されており、まちと人をつなぐ“カフェスタイルの空間”として親しまれています。学園祭への出店などを通じて美大生との交流を深めるなど、地域に根ざした場づくりにも力を入れています。
まちと人をつなぐカフェスタイルのレンタルスペース「Y'sCAFE」
TOKYO創業ステーションTAMAでのコンシェルジュ相談では、「この場所を趣味として楽しむだけで良いのか」という問いを投げかけられたことが、大きな転機となりました。建築現場の監督や不動産管理会社など、多様なキャリアを持つ岩下さんは、やりたいことが広がりすぎて整理できずに悩んでいましたが、相談を重ねる中で「自分が本当にやりたいこと」が明確になり、サービスの価値を言葉にできるようになったといいます。起業仲間との出会いや情報交換、学びの機会も増え、前向きに挑戦できる環境が整いました。
今後は、相続相談やレンタルスペースの運営にとどまらず、自身の経験を活かしたリフォームや売却につなげる仲介事業も視野に入れ、収益性のあるビジネスモデルを構想しています。さらに、思い出の詰まった実家を手放すことに抵抗を感じる人に向けて、美大生とのつながりを活かし、家や家族の記憶を一冊のアルバムとして残すサービスにも挑戦したいと語ります。小平市を拠点に、「相続×地域活性×アート」を融合させた新しいモデルづくりに、岩下さんは歩みを進めています。
ONFOODS株式会社 田中彰仁さん
環境負荷を抑えた新しい畜産のあり方を目指し、「クリーン和牛」プロジェクトを推進するONFOODS株式会社の田中彰仁さん。牛のゲップから発生するメタン排出を抑制する飼料の研究開発から、和牛の生産・流通までを一貫して手がける取り組みは、日本のみならず世界市場を見据えたスケールの大きな挑戦です。
根底にあるのは、「日本の農業を、もう一度元気にしたい」という強い想い。産地直送サービスの立ち上げなど、さまざまな試行錯誤を重ねる中で和牛に着目し、世界に誇れる日本の畜産の価値をさらに高めたいと考えるようになりました。こうして誕生したのが、環境と畜産の両立を目指す「クリーン和牛」プロジェクトです。
転機となったのは、オーストラリアで行われていた研究論文との出会いでした。海藻の一種であるカゲキノリ(紅藻)を飼料に活用することで、牛のゲップに含まれるメタン排出量を最大98%抑制できる可能性が示されていたのです。田中さんはこの研究に可能性を見出し、現在は学術機関とも連携しながら、実用化に向けた飼料開発を進めています。同時に、八王子や鹿児島の農場での試験、さらには流通を見据えた外食チェーンへの営業など、研究と事業化を並行して進めています。
飼料の原料となる海藻のカゲキノリ(紅藻)
研究開発とビジネスを同時に進める難しさの中で、TOKYO創業ステーションTAMAの専門相談は、事業全体を整理する大きな支えとなりました。現在は資金調達も順調に進み、1カ月で約400万円を集めるなど、プロジェクトは着実に前進しています。
農林水産省の認可取得に約2年、その後の飼育期間を含めると、流通までには最低でも4年を要する「クリーン和牛」。長い道のりであることを承知の上で、田中さんはこう語ります。「日本の畜産を、世界で誇れる産業にしたい」。その言葉どおり、環境と食の未来を見据えた挑戦は、今まさに動き出しています。
HopeWay Livin 宮下 洋亮さん
訪問介護の現場経験をもつ宮下洋亮さんは、介護保険制度では提供できないサービスに課題を感じ、自費介護事業を立ち上げました。屋号「HopeWay Livin(ホープウェイ リヴィン)」には、暮らしに希望の道筋をつくりたいという思いが込められています。
「介護は究極のサービス業であり、その人らしさに深く寄り添う仕事」。その理念に共感し、大学卒業後すぐに介護業界へ飛び込んだ宮下さん。有料老人ホームで働く中で自身が取り組むべき課題も見えてきたそう。そんな折、漫画を通じて知ったのが、オランダの認知症ケア施設「ホグウェイ」。介護施設でありながら一つの「街」として機能し、認知症のある人が自然な日常を送れる環境に、大きな衝撃を受けたといいます。
日本ならではの「ホグウェイ」の形を模索するため、在宅介護の現場を知るべく訪問介護の道へ進んだ宮下さん。そこで直面したのは、暮らしを維持するために多くの支援が必要であるにもかかわらず、介護保険制度ではどうしても支えきれない“日常の隙間”の存在でした。
こうした課題を受け、宮下さんは身体介護そのものではなく、生活の維持を支えるサービスや、「やりたいこと」「生きがい」を応援するコンサルティング型の自費介護事業での収益化を構想します。事業計画の策定や地域での信頼づくりに悩む中、TOKYO創業ステーションTAMAでのプランコンサルティングやセミナーへの参加が、学びと仲間づくりの場となりました。起業を目指す仲間との出会いは、大きな励みになったといいます。
感謝状を受け取るHopeWay Livinの宮下 洋亮さん
現在は、団地に暮らす人々の姿に「日本版ホグウェイ」の可能性を見出しています。「団地を一つの街のように捉え、日常の困りごとを支えながら『やりたい』を応援する。その人らしく生き続けられる地域をつくりたい」。その第一歩として、新たな取り組み「井戸端介護」をスタートさせます。「介護を、もっと前向きなものにしたい」。穏やかな語り口の奥にある、まっすぐな情熱が印象的でした。
課題商店 木下実さん
東小金井駅の高架下施設で、わずか6㎡のセレクトショップ「課題商店」を営む木下実さん。この小さな店には、海洋プラスチックゴミ、フードロス、有害鳥獣、放置竹林――私たちが普段の生活の中で目を背けがちな“社会課題”が、確かな形をもって並んでいます。木下さんは、商品を売ることを目的とするのではなく、「買い物」という身近な行為を通して、社会課題を自分ごととして考えるきっかけを届けています。
前職は食品卸の営業担当。日々の仕事の中で直面していたのが、当たり前のように発生するフードロスでした。「このままでいいのだろうか」。そうした違和感が、やがて社会全体の課題へと視野を広げ、子どもやその先の世代に誇れる仕事をしたいという思いへとつながり、起業を決意しました。
店内には、海洋プラスチックをアップサイクルしたアクセサリーやトレー、放置竹林から生まれたメンマ、ジビエレザー製品、フェアトレードコーヒーなど、“課題”をテーマにした8ブランド31アイテムが並びます。木下さんが大切にしているのは、商品そのものだけでなく、その背景にあるストーリー。取り扱うブランドの作り手一人ひとりと実際に会い、想いを直接聞いたうえで、同じ熱量を持ってお客様へ伝えています。
海洋プラスチックゴミのアクセサリー(左)、放置竹林から作られたメンマ(右)
さらに課題商店の特徴は、仕入品にとどまらない点にあります。靴づくりの学校で学んだ技術を活かし、床革や端材を使ったオリジナルのレザーアイテムを自らデザイン・制作。現在は、以前から関心を寄せていた有害鳥獣問題の“当事者”になるべく、立川猟友会に所属し、青梅で狩猟にも取り組んでいます。将来は、自ら仕留めた鹿や猪の革で製品を生み出すことを目標にしています。
開業にあたっては、退職前からTOKYO創業ステーションTAMAに通い続けました。プランコンサルティングを通じて、漠然としていた想いが事業計画として言語化され、物件探しや融資相談まで一貫した支援を受けたことで、「最初の一歩を踏み出す勇気をもらえた」と振り返ります。
木下さんが目指すのは、課題を“誰かの問題”で終わらせないこと。関心を持つ当事者が増えれば、リスクは分散され、解決へのスピードは確実に上がると信じています。課題商店は、商品を通じて当事者を増やし、地域とともに社会課題と向き合うための入り口。その小さな店から、確かな変化が生まれ続けています。
課題商店のオリジナルTシャツ
「TOKYO創業ステーションTAMA」のラウンジスペース
多摩地域を拠点に、それぞれ異なる分野で起業に挑戦する9人の登壇者が集った本イベント。発表では、事業の成果だけでなく、悩みや迷い、試行錯誤のプロセスも率直に語られました。その一つひとつが、これから起業を目指す人にとって現実的で心強いヒントとなり、会場には共感と前向きな空気が広がっていました。
TOKYO創業ステーションTAMAは、単なる相談窓口ではなく、人と人、想いと機会をつなぐ“ハブ”として機能していることが、登壇者の言葉からも伝わってきます。起業のかたちは違っても、「一人ではなかった」という共通の実感が、この場を支えていました。
挑戦のスタート地点に立つ人、次の一歩を模索する人を応援する当施設。新たな一歩を踏み出したいなら、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。
アクセス:多摩モノレール立川北駅 徒歩約4分/JR立川駅 徒歩約8分
住所:〒190-0014 東京都立川市緑町3-1 GREEN SPRINGS E2-3
営業時間:平日10:00~22:00/土日祝10:00~18:00 ※最終受付は閉館の1時間前まで
休館日:年末年始、ビルの休館日、指定休業日(HPにて随時告知)
施設HP:TOKYO創業ステーションTAMA